PIER

《PIER》
アクリル、砂・キャンバス
50 × 50 cm

《PIER》は、
抽象的な幾何学と、印象派的な感触を重ね合わせた作品です。
アクリルに砂を混ぜ、
画面にざらつきと重みのある質感を生み出すことで、
光や空気だけでなく、
“時間の手触り”までを描こうとしました。

荒々しいアースカラーの上に、
黒の大胆なストロークが走ります。
それは、静けさの中にある混沌、
混沌の中に残る静けさ——
相反するものがせめぎ合う感覚を呼び起こします。

一筆一筆、ひと粒ひと粒に宿るのは、
人生が持つ美しい揺らぎと、
整理できない感情の波です。
この作品は、見る人を挑発するためではなく、
見る人の内側にある感覚と共鳴するために、
強い感情の脈動を抱えて存在しています。

画面の左側には、
街灯のポールがひとつ立っています。
それは、抽象の中に置かれた“現実の手がかり”であり、
見る人の視線を風景へと引き戻します。

そして、一本のオレンジのラインは、
船が海を切り裂いて進んだ航跡を示しています。
静かな水面に残るその線は、
この作品の中で唯一、
「進む」という行為の痕跡です。

《PIER》は、
感情の荒波と、静寂の境界に立つ作品です。
飾る空間に、ただ強さを置くのではなく、
見る人それぞれの心の揺れを受け止め、
深く共鳴するための一枚です。